マヌルネコは飼えるのか?条約・日本の法律・感染症から考える
マヌルネコは、家庭で飼えるネコではありません。手に入れる正規の道が無く、飼育下でも感染症で命を落としやすい動物です。この記事では、その理由を条約・日本の法律・病気の3つから説明します。
あらすじ
この記事では、次の7項目を順に説明します。
- マヌルネコは飼えるのか?結論は「家庭では飼えない」
- マヌルネコはワシントン条約の附属書IIに載っている
- 日本の法律ではどう扱われるのか
- 感染症に弱く、動物園でも子育てが難しい
- 海外の「販売」情報に注意
- マヌルネコに会いたいなら動物園へ
ほか1項目は下の目次から。
目次
マヌルネコは飼えるのか?結論は「家庭では飼えない」
マヌルネコは飼えるのか。動物園で見た人が、一度は思う疑問です。
結論から書きます。家庭では飼えません。理由は3つあります。
- 国をまたぐ取引に条約の手続きが要り、正規に手に入れる道が無い
- 日本の法律では、売る側にも登録が要り、「ペット用」の流通が無い
- 飼育下では、トキソプラズマ症という病気で子どもが死にやすい
法律で「飼ってはいけない」と名指しされているわけではありません。でも、手に入れる道がなく、飼えたとしても命を守るのが難しい。ポイントはここです。
| 決まり | マヌルネコの扱い |
|---|---|
| ワシントン条約(CITES) | 附属書II。ネコ科全種が対象(附属書Iの種を除く)。輸出国の許可書が要る |
| 種の保存法(日本) | 国際希少野生動植物種は附属書Iの種が対象。マヌルネコは別表に載っていない |
| 動物愛護管理法の特定動物(日本) | ネコ科の一覧に載っていない |
| 動物愛護管理法の動物取扱業(日本) | 売る・貸す・展示する事業者は登録が要る |
| 生息国での狩り | 認めているのはモンゴルだけ。ほかの国は禁止 |
マヌルネコはワシントン条約の附属書IIに載っている
マヌルネコが飼えない1つめの理由は、ワシントン条約です。
ワシントン条約(CITES)は、野生の動植物が取引で減らないように、国をまたぐ取引を規制する条約です。規制の強さで、附属書I・II・IIIの3つに分かれています。
ネコ科は、全種が附属書に載っています。トラやユキヒョウなどは、いちばん厳しい附属書I。それ以外のネコ科は、すべて附属書IIです。マヌルネコも附属書IIです。IUCNの評価文には「Felis manul として附属書IIに掲載」と書かれています。
附属書IIの種を国をまたいで運ぶには、輸出する国の政府が出す輸出許可書が要ります。許可書は、野生の集団に害がないと判断されたときに出ます。ペットとして売るための輸出に、許可が出る見込みはほぼありません。
日本は1980年からこの条約の締約国です。許可書の無い動物は、日本に持ち込めません。家で飼われている小型のネコ(イエネコ)は条約の対象外ですが、マヌルネコはイエネコではありません。
日本の法律ではどう扱われるのか
マヌルネコが飼えない2つめの理由は、日本の法律です。条文を確かめたうえで、断定しすぎずに書きます。
種の保存法
「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」は、国際希少野生動植物種の譲り渡しや販売の広告を禁じています。この国際希少野生動植物種は、ワシントン条約の附属書Iに載る種が中心です。
マヌルネコは附属書IIなので、この法律の別表第二(=国際希少野生動植物種の一覧)には載っていません。2026年10月時点のe-Govの条文で確かめました。つまり、この法律で名指しで禁じられてはいません。
動物愛護管理法の「特定動物」
「動物の愛護及び管理に関する法律」には、人に危害を加えるおそれのある「特定動物」の決まりがあります。特定動物を飼うには都道府県知事の許可が要り、2020年6月からはペット目的の新しい許可は出ません。
特定動物の一覧は、施行令の別表にあります。ネコ科で載っているのは、次の13の種と属です。マヌルネコは載っていません。
- チーター、カラカル、アジアゴールデンキャット、ジャングルキャット
- オセロット、サーバル、オオヤマネコ属の全種、ウンピョウ
- ヒョウ属の全種、スナドリネコ、アフリカゴールデンキャット、ピューマ属の全種、ユキヒョウ
動物取扱業
同じ法律で、動物を売る・貸す・展示する事業は「第一種動物取扱業」として登録が要ります。登録を受けずに営めば罰則があります。マヌルネコを正規に売れる登録事業者は、探した範囲では見つかりませんでした。
まとめると、こうなります。日本の法律は、マヌルネコを「飼ってはいけない動物」と名指しはしていません。でも、正規に手に入る道がなく、売る側の登録も要ります。法律の壁は、入口にあります。
感染症に弱く、動物園でも子育てが難しい
マヌルネコが飼えない3つめの理由は、病気です。
マヌルネコの子どもは、トキソプラズマ症(=トキソプラズマという寄生虫が起こす病気)にとても弱いことが知られています。オーストリアのシェーンブルン動物園の研究では、1998年から2002年に生まれた子のうち58%が、生後2週から14週のあいだに死にました。多くが急性のトキソプラズマ症でした。北アメリカの動物園でも、生まれた子の約6割が4か月以内に死ぬ時期がありました。
なぜそこまで弱いのかは、まだ分かっていません。野生のモンゴルのマヌルネコは、この寄生虫にほとんど出会いません。飼育下に入ってはじめて感染する、と研究者は考えています。
トキソプラズマは、イエネコのふんを通して広がります。専門の設備と獣医師がいる動物園でさえ、子を守るのに苦労してきました。家庭で防ぐのは、さらに難しいことです。
アメリカのスミソニアン国立動物園は、マヌルネコについて「一度も家畜化されたことがなく、縄張り意識が強く、脅かされると攻撃的になる」と説明しています。野生動物は、訓練を受けた職員のいる専門施設でだけ飼われるべきだ、とも書いています。
海外の「販売」情報に注意
「マヌルネコ 飼える」と検索すると、「海外では売っている」「値段はいくら」といった情報が出てきます。見方を書いておきます。
- ワシントン条約で、国をまたぐ取引には輸出国の許可書が要ります。許可書の無い取引は違法です
- 生息国で野生の個体を捕まえることは、モンゴルを除いて禁止されています
- 前金を求める、動物を見せない、遠くにいると言う。こうした売り方は、子犬・子猫の詐欺でよく見られる形です
「売っている」と書かれていても、合法に手に入る道があるという意味ではありません。応じないのがいちばんです。
マヌルネコに会いたいなら動物園へ
マヌルネコに会いたい気持ちは、動物園で満たせます。日本では複数の動物園がマヌルネコを飼育しています。場所はマヌルネコに会える日本の動物園に、個体の名前は日本のマヌルネコの名前にまとめました。
動物園では、国際的な繁殖計画のもとで、血のつながりを管理しながら子を育てています。会いに行くことが、いちばん近い「飼い方」です。
法律の内容は2026年10月時点のものです。条文は e-Gov 法令検索で確かめられます。
出典
- 経済産業省:ワシントン条約について(条約全文、附属書、締約国など)
- 経済産業省:ワシントン条約附属書(動物界)(PDF)
- IUCN レッドリスト:Otocolobus manul(2020年の評価)
- e-Gov 法令検索:動物の愛護及び管理に関する法律
- e-Gov 法令検索:動物の愛護及び管理に関する法律施行令(別表:特定動物)
- e-Gov 法令検索:絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律施行令(別表第二)
- 環境省:国際希少野生動植物種について
- 東京都動物愛護相談センター:特定動物の制度改正について
- Basso ほか(2005):飼育下のマヌルネコのトキソプラズマ症(Parasitology)
- Brown ほか(2005):マヌルネコがトキソプラズマに極端に弱い理由の生態的な背景(Journal of Wildlife Diseases)
- スミソニアン国立動物園:マヌルネコの10の事実